作曲レポート #001


■はじめての依頼人

 「まほうのフィールド」は、その活動を完全に休止していました。

 あるカードゲームにハマってしまい、休みのたびに大会に出場。

 せっかく買った機材は、2ヶ月ほど前に引っ越してからずっと箱の中に眠ったままです。

「さーって、そろそろ大会にでも行こうかなー!」

 そんなときでした。

 カランコロン。

 「まほうのフィールド」に、一人の依頼人さんが舞い込んだのは。

 

「長野在住のN(仮名)と申します」

 依頼人さんの話を聞くと。

 あるアーティストさんに詞を提供している作詞家さんとのこと。

 今回の依頼は、彼の書いた詞に曲をつけて欲しいとのことでした。

 

 アーティストさんは、男性二人のツインボーカルユニット。

 自分の曲は、どちらかというと女声ボーカルを想定している曲が多いです。

 そのため、男声ボーカルの曲は作れるかなーと少々不安になりました。

 ともかく、そのアーティストさんの曲を聴いてみることにします。

 

 とにかくうまい。それに、ハモリが完璧。

 ってのが、最初の感想でした。

 そして、男声ボーカルなのにキーがけっこう高い。

 これなら、女声ボーカルの曲でも普通に歌えそうです。

 というか、これだけのアーティストさんに自分の曲を歌ってもらっていいんですか!?

 

「どんな感じの曲をイメージされていますか?」

「Kiaさんの「きせき」が一番イメージが近いです。

 あとは、「そのときまで」や「好きな人がいて」でしょうか」

 優しくて、スローテンポの曲。

 一番の得意分野です。これも問題なさそう。

 

「では、歌詞を見せてもらえませんか?」

「えーっと、これなんですが……」

 すると、Nさん(仮名)は少々ためらいながら歌詞を見せてくれました。

 歌詞を読んでみて、その理由が分かります。

 なぜなら、それはラブソングの歌詞だったからです。

 

「実は……この曲をきっかけに”ある人”に告白します」

 Nさん(仮名)の話では、この曲で1枚のCDを作り。

 そのCDを“ある人”にプレゼントし、同時に告白するということでした。

 

「分かりました。この依頼、お受けします」

 依頼を断る理由はありませんでした。

 「好きな人がいて」のテーマである、「秘めた想い」「伝えられない想い」という境遇そのまんまだったからです。

 

 曲や詞を作るうえで一番重要なのは「共感」だと思っています。

 曲を聴く人が、自分のおかれた状況に重ね合わせ、シンクロしてもらえるか。

 

 何を隠そう、自分の曲「メッセージ」「好きな人がいて」は、高校時代に好きだった女の子に宛てて書いたもの。

 卒業式前に告白してフラれちゃいましたが。

 で、その子の名前がたまたま某声優さんと同じであったがために。

 今では、その声優さんにハマっているというダメ人生を送っています(実話)。

 

■製作開始

 歌詞に曲を作るのは、何回か経験したことがあります。

 ただ、1番と2番の曲の音数が合ってないと、かなり作りにくいため。

 ですので、多くの曲は先に曲、後から詞をつけることが多いです。

 でも、今回の依頼主はさすが作詞家さん。1番と2番の音数は問題ありませんでした。

 しかも、ちゃんとAメロ、Bメロの指定までされています。

 

 もらった歌詞はこんな感じでした。

 数字は、音の数です。

 

タイトル「Dear」

 

(Aメロ)

11 10

11 9

13 12

 

(Aメロ)

11 10

10 9

13 12

 

(Bメロ)

8 8 2

 

(Cメロ)

5 6

15 7

5 6

15 7

10 6

 

歌詞を見ていたら、真っ先にBメロが浮かびました。

 

(Bメロ)

4 4 4 4 2

 

として、Cメロ(サビ)につなげることにします。

Cメロも、原型はほぼ完成。

問題はAメロでした。

66音×2=132音と、思ったより多かったのです。

自分の曲の場合、特にAメロの曲の音は少ないです。

たとえば「好きな人がいて」のAメロは約55音。「きせき」で約51音。

 

あまり、Aメロを長くしすぎると、曲が間延びしてしまいます。

そこで、曲の構成を若干変更することにしました。

 

(A1メロ)

11 10

11 9

(B1メロ)

13 12

 

(A2メロ)

11 10

10 9

(B2メロ)

13 12

 

(C1メロ)

4 4 4 4 2

 

(C2メロ)

5 6

15 7

5 6

15 7

10 6

 

として、短いBメロをCメロにつなげてしまいます。

これで、Aメロが長い問題もほぼ解決。

結果、歌詞をもらったその日のうちに曲の原型は出来上がっていました。

 

この曲を直しつつも、ピアノの練習。

曲を作った3日後に、ピアノによるデモテープの完成です。

 

■直し

 一度、依頼人さんに曲を送って、チェックしてもらいます。

 結果はほぼOKでした。

 B2部分のラストと、C2の一部にツッコミが入ったので、そこを直し。

 あとは、打ち込みの作業を残すのみです。

 

■打ち込み

 まずは、主旋律を打ち込みます。

 MIDIを録音する方法を開拓してからは、だいぶ作業がスムーズになりました。

 続いて、コードの作成。

 メインメロディーを聴きながら、ピアノでコードを付けていきます。

「C」とか「D」とかを、紙に書いていって、コード完成。

 

 あとは、2番の作成。

 1音少ないところは1音削り、逆に多いところは1音足します。

 1番と2番の音数が同じでも、詞の区切り方によって曲を変える必要があります。

 

 これで曲は完成しました。

 

 しかし、気分が乗ってきたので歌を歌います前奏を付け。

 デタラメなコーラスまで付けて、それっぽくしてみます。

 これって、本来編曲がやる作業なのかもしれません。

 でも、これでだいぶイメージ通りのものができました。

 

■完成品

 聴いてみる

 

■さいごに

 今回は、アーティストさんにお任せしてしまうので、これで作業は完了です。

 どんな曲に仕上がるのか、完成が楽しみです。

 彼の恋路が成功することを祈りつつ――

 

 カランコロン。

「あのー、作曲の依頼を……」

 「まほうのフィールド」のドアが開くと、そこには別の依頼人さんが立っていたのでした。

 はいっ!?

(たぶん続く)


このレポートは、依頼人さんとの実際のやりとりをもとに、

再構成を行っています。


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